エレクトロニック・音楽制作やミキシングにおいて、最も不可欠な要素のひとつがフィルターです。オーディオフィルターとは、特定の処理によって音声信号を操作するための技術です。音声信号の周波数特性を変化させ、トーンやテクスチャーを変えたり、不要なノイズやアーティファクトを取り除いたり、特定の帯域を強調したりすることができます。フィルターはシンセサイザーやサンプラーだけでなく、EQにも搭載されています。どこにでもあるツールですが、効果的に活用するには、その仕組みと用途に合った適切なフィルターの選び方を理解しておくことが重要です。
この記事では、さまざまな種類のフィルターとその使い方を紹介し、混乱しやすい関連用語についてもわかりやすく解説します。また、各フィルターの活用例や、実際のサウンドへの影響についてもデモを交えてご紹介します。
各セクションはこちら:
KONTAKTとiZotope Neutronをご用意の上、このチュートリアルをお試しください。
オーディオフィルターとは?
オーディオフィルターとは、音声信号の周波数特性をフィルタリング(ろ過)するように設計された機器やソフトウェアのことです。フィルターの基本的な役割は名前の通り、特定の周波数を遮断し、それ以外の周波数を通過させることです。オーディオフィルターを使用することで、特定の周波数や、「バンド」と呼ばれる周波数帯域全体を処理することができます。
オーディオフィルターには、ローパスフィルター、ハイパスフィルター、バンドパスフィルター、ノッチフィルターなど、さまざまな種類があります。それぞれのフィルターに独自の特徴があり、音声処理において異なる目的で使用されます。これらはiZotope Neutronのようなフィルタープラグインで利用できます。
ローパスフィルターとは?
ローパスフィルターとは、低周波信号を通過(パス)させ、高周波信号を遮断または減衰させるオーディオフィルターの一種です。言い換えれば、ローパスフィルターは低音域を「通し」、高音域を「カット」あるいはろ過します。
フィルタリングが始まる境界点は「カットオフ」と呼ばれ、処理が始まる周波数によって指定されます。その周波数より上をどれだけ急峻に減衰させるかは「スロープ」(またはカーブ)と呼ばれます。これは緩やかまたは急激なカットオフを設定するための傾斜であり、通常は「オクターブあたりのデシベル数」を表す「dB/oct」で指定されます。周波数帯域(オクターブ単位)に対して、どれだけ急激にゲインレベル(デシベル単位)を減衰させるかを示します。
大半のフィルターは6の倍数で段階的にdB/octの値を設定でき、ステップごとに減衰率が倍になります。実際の変化を聴いてみましょう。ここでは、往年のクラシックなKorgアナログシンセの素晴らしいサンプルバンクを収録したKONTAKTライブラリTHE ATTICで作成したシンセメロディを用意しました。

次に、iZotope Neutronを使ってローパスフィルターを適用してみましょう。

フィルタースロープが緩やかなのがわかります。カットオフ周波数の2,365 Hz以上の帯域が、緩やかにカットされています。実際のサウンドをお聴きください。
高音域は残っているものの、控えめになっているのが聴き取れます。高域は完全に削られるのではなく、適度に抑えられています。つまり、6 dB/oct(オクターブあたり6デシベル)のフィルターは、サウンドを完全に消し去ることなく、ミックス内で他のパートのためのスペースを確保したい場合に適しています。
次に、1段階上の12 dB/octのフィルターを見てみましょう。

スロープがより急になり、2,365 Hz以上の帯域のゲインがさらに削られて、音にもわずかな違いが生じているのがわかります。
フィルターを24 dB/octに変更するとどれほど変化するか、聴いてみましょう。
そしてスロープを48 dB/octまで上げると、カットオフ周波数から急激に減衰しているのが確認できます。カットオフ以上の周波数の大部分がカットされ、サウンドに明確な違いが生まれているのが聴き取れます。

ハイパスフィルターとは?
ハイパスフィルターとは、高周波信号を通過させ、低周波信号を遮断または減衰させるオーディオフィルターの一種です。低周波をカットするのに便利なため、ローパスが「ハイカット」と呼ばれるのと同様に、ハイパスも「ローカット」と呼ばれることがあります。
ここでは、アナログモジュラーシンセの波形とサンプルを使用したKONTAKTライブラリMODULAR ICONSを使って、このベースシーケンスを作成しました。
カットオフを203 Hzに設定し、6 dB/octのハイパスフィルターでそれ以下の周波数をカットするとどうなるか見てみましょう。

実際のサウンドをお聴きください。ローパスフィルターと同様に、低域に向かって緩やかなスロープを描き、周波数が低くなるほど大きく減衰しているのがわかります。
さらにステップを上げていくと、カットオフがより急峻になっていくのが確認できます。

フィルターのステップを上げるたびに、低音域がどんどん削られていきます。

スロープが急になるにつれて、シンセサイザーでおなじみのフィルターサウンドに近づいていきます。

48 dB/octのスロープに達する頃には、カットオフ周波数の203 Hz以下の帯域はほとんど聴こえなくなります。カットオフポイント以上の周波数だけが抽出され、カットオフポイントをさらに高く設定すれば、同様に急激に低域がカットされていきます。
バンドパスフィルターとは?
バンドパスフィルターとは、特定の周波数範囲(バンド)のみを通過させ、その範囲の上流および下流の周波数を遮断するオーディオフィルターの一種です。音声信号内の特定の帯域のみを分離したり、特定の周波数範囲を強調またはカットして音のトーンキャラクターを整えたりするのに便利です。
バンドパスフィルターは、ハイパスとローパスの両方の周波数特性を組み合わせて、特定の周波数範囲を選択する仕組みと考えるとわかりやすいでしょう。
バンドパスフィルターの形状は次のようになります:

ここで、チュートリアルの最初に使用したフィルターなしのメロディをもう一度聴いてみましょう。続いて、同じメロディにバンドパスフィルターを適用した例をお聴きください。
高音域と低音域の両方がカットされているのがわかります。この効果は、古い電話越しに聴いている音によく似ています。昔の電話は「帯域幅(バンド幅)」が狭く、伝達できる周波数の範囲が限られていたためです。
バンドストップフィルターとは?
ローパスの逆がハイパスなら、バンドパスの逆は何でしょうか? それがバンドストップフィルターです! バンドストップフィルターは、特定の周波数帯域(バンド)のみを除去し、それ以外の帯域をすべて通過させるフィルターです。シェルフEQにも似ていますが、ターゲットとなる中心周波数の前後の帯域に焦点を当てて処理を行います。そのカーブの形状と、元の未処理メロディとの比較をお聴きください。

ノッチフィルターとは?
ノッチフィルターとは、特定の周波数をピンポイントで除去または減衰させるフィルターです。バンドストップフィルターと似ていますが、より精密に狙った周波数に絞って作用します。プロデューサーやミックスエンジニアが「外科的(サージカル)」イコライジングと呼ぶ、他の帯域に影響を与えずに特定の不要な周波数を極めて精密に取り除く処理は、このノッチフィルターを使って行われます。
対象となる周波数の周波数特性に「ノッチ(切れ込み)」または窪みを作り、その周波数を効果的に減衰または「カット」することから「ノッチ」フィルターと呼ばれます。ノッチフィルターは、オーディオ信号に含まれる特定の不要な周波数や「リンギング」を除去するためによく使用されます。また、特定の周波数や周波数帯域をカットすることで、サウンドのトーンキャラクターを整えるためにも活用できます。
ノッチフィルターは特定の周波数を狙い撃ちしながら、その周辺の周波数をどれくらい影響させるかを選択できます。これはローパスフィルターやハイパスフィルターで説明したスロープに似ています。ただし、ノッチフィルターはバンドパスフィルターと同様に両方向にスロープを持ちます。この特性を「Q値(Qファクター)」と呼びます。
Q値(Q)とは、フィルターなどの周波数依存システムにおける周波数特性のピークや窪みの鋭さ(狭さ)を表す指標です。フィルターの中心周波数をフィルターの帯域幅で割った比率として定義されます。Q値が高いほどピークや窪みが狭くなり、Q値が低いほど広くなります。
ノッチフィルターの実際の動作を、音と画面で確認してみましょう。こちらは753 Hzに設定されたノッチフィルターで、非常に高いQ値を使用して極めて狭い範囲を指定しています。これにより、選択されたその周波数とそのすぐ近くのわずかな周波数だけが低減されます。

効果は非常に繊細で、フィルターを適用していないバージョンと、ノッチで低減したバージョンの違いはほとんど聞き取れないほどです。
高いQ値のノッチフィルターは、特定の共鳴や不快な倍音を取り除くのに最適です。これはミキシングやマスタリングで非常に役立ちます。
Q値を下げると、ノッチフィルターはより広い周波数帯域をカバーできます。こちらは中程度のQ値に設定されたノッチで、先ほどのものよりもピンポイントさは少し控えめになります。

Q値が低いノッチフィルターは、対象の周辺の周波数をより広範囲にカットするため、バンドストップフィルターとかなり似た働きをします。バンドストップと同様に、中域の周波数帯がごっそり削り取られるのがはっきりと聴き取れるため、変化がはるかに分かりやすくなります。

これらが制作でよく目にする代表的なフィルターの種類であり、ミキシング用のツールとして、あるいはサウンドデザインでサウンドのトーンをクリエイティブに整える手段として、知っておくと大いに役立ちます。KONTAKTやNeutronで実際に触ってみれば、楽曲制作やミキシング向けのあらゆるオーディオツールでも同じ仕組みが使われていることに気づくはずです。これで、フィルターがどのようなもので、どう使うべきかがしっかりと理解できたことでしょう。