コンプレッションほど広く使われていながら、正しく理解されていないオーディオエフェクトは他にありません。コンプレッサーは、EQやリバーブといった定番エフェクトと同様に音楽制作の要となる存在ですが、その仕組みをしっかりと理解しないまま使われていることも珍しくありません。その結果、多くの時間とCPUを無駄にしてしまったり、最悪の場合は過度に潰れて聴きづらいミックスになってしまうこともあります。
しかし、一度コンプレッションをマスターすれば、このエフェクトは魔法のような効果を発揮します。グループやミックス全体をまとめ上げたり、ドラムにパンチを加えたり、生気のないトラックに豊かなトーンと色彩をもたらしたりすることができます。では、コンプレッションとは一体何なのでしょうか?この記事では、コンプレッサーの使い方を順を追って解説し、音がどのように変化するのか、一般的な設定項目はどういったものかを詳しく見ていきます。さらに、音楽制作における代表的な活用法も紹介し、明確な意図を持ってコンプレッサーを使いこなすための基礎知識をお届けします。
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スタジオの歴史において屈指の人気を誇る3基のコンプレッサーを収録したVINTAGE COMPRESSORSパックを使いながら、このチュートリアルを読み進めてみましょう。
音楽におけるコンプレッションとは?
コンプレッションとは、信号の中で最も大きな音と最も小さな音の差を縮めることで、ダイナミックレンジを狭めるオーディオエフェクトです。特定レベルを超える音量を検知し、その部分の音量を引き下げることでこれを実現します。
コンプレッションは楽曲制作に欠かせないツールであり、ミキシングやサウンドデザインの様々な場面で活用されています。ボーカルや楽器の静かなパートを大きなパートの陰に隠れないよう際立たせたり、複数のインストゥルメントをまとめたグループにダイナミクスの統一感を与えて一体感を生み出したり(いわゆる「グルー」効果)、ドラムにアタック感を加えたり、サウンドに独特のトーンをもたらしたりすることができます。また、ミックス全体のバランスを整えるマスタリング用途でも広く使われています。
コンプレッションをかけるとどんな音になる?
控えめに適用すると、コンプレッションは信号を滑らかにし、均一感をもたらします。極端な設定にすると、信号は押し潰されたようなサウンドになります。何を聴くべきかを知っていればコンプレッション独特の質感はすぐに聴き分けられますが、EQやリバーブなどのプロセッシングに比べると、慣れていない耳には変化を捉えるのが難しい場合もあります。
ドラムループに極端な設定を適用して、コンプレッションの音の変化を確認してみましょう。以下のクリップでは、後半部分にコンプレッションが適用されています。スネアなどの最も音量が大きい要素がミックスの奥へと押し戻される一方で、ハイハットのような静かな要素が前に飛び出してくるのが分かります。また、全体として「ポンピング」感が生まれ、ループがよりエネルギッシュで躍動感あふれるものになっていることにも注目してください。
コンプレッションは音にどんな効果を与える?
コンプレッションは、一定のスレッショルドを超えた部分の音量を引き下げます。つまり、まずは音全体を小さくします。その後、信号全体のレベルを持ち上げてピークを元の音量に戻します。これにより、元の信号で最も静かだった部分が従来よりも大きくなります。その結果、全体の音量が上がったように感じられるのです。
ここで誤解が生じることがよくあります。コンプレッションは一般的に音を「大きく」するものと考えられがちですが、本来は音を小さくする処理である点に注意してください。ゲインブーストと組み合わせることで初めて、ミックスに音圧感やラウドネスを加えることができるのです。
<h2=”compression-purpose”>音楽におけるコンプレッションの目的とは?
コンプレッションは、楽曲制作において多彩な役割を果たします。最も避けるべきなのは、明確な目的を持たずにコンプレッサーをインサートすることです。シグナルチェーンにコンプレッサーのプラグインを立ち上げると、少し音が大きくなったように感じられ、「いい感じだ」と思ってそのまま次の作業に移り、二度とコンプレッサーの設定を触らない……というのは誰もが経験することです。しかし、目的のないコンプレッションはトラックにほとんど何ももたらさないばかりか、状態を悪化させてしまうことさえあります。
最良の結果を得るためには、常に具体的なゴールを意識してコンプレッションを使いましょう。目的が違えば、アプローチも自ずと変わります。ここでは、コンプレッションの代表的な活用法をいくつか見ていきましょう。
1. ダイナミクスのコントロール
コンプレッションの最も一般的な使い方は、トラックのダイナミクスを均一にすることです。原理はシンプルで、チャンネルやバスの音量が大きい部分を抑えることで、全体のダイナミックレンジを狭めます。
ただし、ミックス内のすべての楽器にコンプレッションが必要なわけではありません。例えば、ディストーションのかかったエレキギターなどは、元からダイナミックレンジが非常に狭くなっています。一方で、ボーカルや多くのアコースティック楽器のように、ダイナミクスのコントロールが不可欠な場面も数多く存在します。

ボーカルを滑らかにするためにコンプレッションがどのように使われるか、実際に聴いてみましょう。ここでは、伝説的なFETコンプレッサーをNative Instrumentsが再現したVC 76を使用しています。スレッショルドは信号の最も大きなピーク数dBだけを捉えるように設定し、中程度のアタックタイムとリリースタイム、低めのレシオを組み合わせることで、自然で音楽的なコンプレッション効果を生み出しています。
以下のクリップでは、最初に未処理の信号が流れ、その後にコンプレッションをかけた信号が続きます。その効果はさりげなくも心地よいものです。各フレーズの歌い出しの大きな音が突出せず、ボーカル全体の流れに自然に馴染んでいるのを聴き取ってみてください。
注意:ボーカルのダイナミックレンジが非常に広い場合、コンプレッションだけで抑え込もうとすると歪みが生じる可能性があります。その場合は、コンプレッサーに送る前にボリュームオートメーションを使って信号をあらかじめ整えておきましょう。
2. トランジェントのシェイピング
コンプレッションは大きなピークを抑えるだけでなく、ドラムの鋭いトランジェント(立ち上がり)を際立たせる用途にも活用できます。これはどのように機能するのでしょうか?遅めのアタックタイムを設定すると、コンプレッサーが反応する前にドラムのアタック成分が通過します。その後、コンプレッサーが後続の音を抑え込むため、トランジェントとそれ以外の音量差が広がります。その結果、鋭くパンチの効いたサウンドが得られ、ミックスにエネルギーと力強さを加えることができます。

ここでは、クリアなサウンドを誇るパワフルなバスコンプレッサー、SOLID BUS COMPを使ってドラムループにパンチを加えています。遅めのアタックでトランジェントを通し、速めのリリースで次の打撃音の前にコンプレッサーが素早く元の状態へと復帰します。クリップの途中でコンプレッションが加わった瞬間に、サウンド全体が引き締まるのを体感してみてください。
3. サイドチェーン・コンプレッション
コンプレッサーは通常、動作のタイミングを判断するために処理対象の信号そのものを検知(リッスン)します。しかし、全く別の信号を検知させたらどうなるでしょうか?それがサイドチェーン・コンプレッションの原理です。例えば、キックドラムとベースパートはどちらもサブベース帯域を占有しており、音が濁りやすい傾向にあります。ベースパートにコンプレッサーを適用し、キックドラムの音を検知するように設定すれば、キックが鳴るたびにベースの音量を下げてスペースを空けることができます。これにより、ローエンドの濁りを回避してクリアなスペースを確保できます。

VC 76を使って実際に確認してみましょう。(Native InstrumentsのVINTAGE COMPRESSORSには、モデリング元の実機には搭載されていないサイドチェーン機能が追加されています。)
まずはサイドチェーンを適用していないサウンドです。太くダビーなベースと重低音のキックが帯域を取り合い、不快な濁りが生じています。
次に、極めて短いアタックタイムとリリースタイム、そして高いレシオでサイドチェーンを適用したサウンドです。コンプレッションによってミックスにスペースが生まれ、ベースパートにリズミカルな「ポンピング」効果が加わっています。これを極端に設定すると、EDMなどのエレクトロニックジャンルでおなじみの特徴的なサウンドを作り出すことができます。
サイドチェーンの活用法はこれだけではありません。もともとサイドチェーンは、ボーカルの不快な高域の歯擦音を取り除く「ディエッサー」として考案された技術です。この場合、「サイドチェーン」信号として元の信号の高域のみをフィルターで抽出したものを送ります。これにより、耳障りな高域成分が含まれるときだけコンプレッサーを作動させ、不要なキンキンとした音を抑えることができます。
4. トーンシェイピング
コンプレッションはダイナミクスを変化させるエフェクトと捉えられがちですが、実際にはそれだけにとどまりません。アナログ回路を備えた往年の名機と呼ばれるハードウェアコンプレッサーは、ダイナミクスを抑えるだけでなく、倍音の歪みや独特の音色の変化をもたらします。多くのコンプレッサープラグインは、そうしたアウトボード特有の芳醇な質感を再現するために緻密にモデリングされています。これらのツールを活用して、トラックに豊かな温かみやキャラクターを加えましょう。

ここでは、サチュレーションレベルを緻密にコントロールできる真空管コンプレッサーのエミュレーション、SUPERCHARGER GTを使ってドラムループにトーンの風味を加えています。パンチ感を損なわずにコンプレッサーから最大限のキャラクターを引き出すため、コンプレッションされた信号を未処理の信号と「パラレル」にミックス(両方の信号を同時に鳴らす手法)しています。
クリップでは、まず未処理のドラムループが流れ、続いてコンプレッションされた信号のみが再生されます。かなり極端な設定で押し潰されたサウンドです。そして3回目には、コンプレッションされた信号とドライな信号がブレンドされ、タイトな輪郭と歪み感のバランスが絶妙に保たれたサウンドになります。
音楽制作でのコンプレッサーの使い方
コンプレッションの目的が理解できたら、次はその具体的な使い方を学びましょう。調整すべきパラメーターが多く、設定による変化も繊細なため、コンプレッサーは誤った使い方をしてしまいがちです。いくつかの基本的なパラメーターを把握しておけば、いつでも狙いどおりのコンプレッションを施せるようになります。
それでは、各パラメーターを見ていきましょう。
スレッショルド
スレッショルドは、コンプレッサーが信号に対して作動し始める音量レベルを設定します。この基準値(dBFS:フルスケールに対するデシベル単位で表記)を超えるオーディオ成分は、すべてコンプレッサーによって圧縮されます。高いスレッショルドを設定すると、最も大きなピークだけが抑えられ、残りの信号は元の状態のまま保たれます。スレッショルドを下げていくと、信号のより多くの部分にコンプレッションが適用されるようになります。
以下の例では、SOLID BUS COMPを使ってドラムループにアタック感のあるトランジェントシェイピングを施しています。クリップの前半では、最も大きな約3 dB(スネアとキックの打撃音)のみを捉えるようにスレッショルドを設定しています。後半では、スレッショルドをさらに大きく-10 dB引き下げています。信号が力強く潰され、実質的にトランジェントだけが残っている様子を聴き取ってみてください。
レシオ
レシオは、信号がスレッショルドを超えた後にコンプレッサーがどれだけ強く反応するかをコントロールします。通常、コンプレッサーはスレッショルドで入力信号を完全に「ブリックウォール(壁のように遮断)」するわけではありません。(その例外がリミッターであり、極めて高い、あるいは「無限大」のレシオを持つコンプレッサーです)。代わりに、スレッショルドを超えた信号の音量を徐々に引き下げます。このゲインリダクションの急峻さがレシオ(比率)として表されます。2:1の場合、信号がスレッショルドを2 dB超えようとするごとに、音量の増加は1 dBに抑えられます。低いレシオでは穏やかで音楽的なコンプレッションが得られ、高いレシオではより「押しつぶされた」ようなサウンドになります。

このサンプルの前半では、低いレシオ(1.5)によって緩やかなゲインリダクションが生じています。後半では、レシオを一気に10まで引き上げています。この場合、先ほどのスレッショルドの効果と同様に、ドラムが不快なほど押しつぶされた結果になります。しかし、スレッショルドとレシオは異なる働きをするものであり、それぞれを調整することで異なる結果が得られることを覚えておくことが重要です。
アタックとリリース
アタックとリリースは、コンプレッションが信号に対してどれだけ素早く作用するかをコントロールします。遅い設定にすると、信号がスレッショルドを超えてからコンプレッサーが効き始めるまでに時間がかかり、信号がスレッショルドを下回った後も解除されるのが遅くなります。タイムを短くするとコンプレッションの反応が素早くなりますが、極端なサウンドになる可能性もあります。アタックタイムとリリースタイムを適切に設定することは極めて重要であり、その設定はコンプレッションを適用する素材によって異なります。
アタックタイムを長くすると、ボーカルやその他の楽器でより音楽的なサウンドになり、ドラムのコンプレッション時にはトランジェントを通すことで、先ほど述べたトランジェントシェイピングのような効果が得られます。アタックタイムを短くするとトランジェントが押しつぶされ、よりタイトで加工感のあるサウンドになります。
一方、適切なリリースタイムの設定は楽曲によって異なります。一般的には、入力信号の次の大きな音が来る前にコンプレッサーを解除させることが望まれます。つまり、楽曲のテンポやグルーヴに合わせてリリースタイムを設定するということです。
アタックを変更するとどのように聴こえるか確認してみましょう。このサンプルの前半では、長いアタックタイム(30 ms)によってドラムのトランジェントを通過させつつ、それ以外の信号をしっかりと抑え込んでいます。その後、アタックタイムを0.1 msまで大幅に短縮しています。するとコンプレッサーがトランジェントを捉え、押しつぶされたようなサウンドを生み出します。これはドラムバス・コンプレッションとしてはあまり望ましくありませんが、パラレル・コンプレッションには効果的です。
次はリリースです。このサンプルの前半ではミディアム(0.4秒)に設定されており、コンプレッションがグルーヴのポケットに心地よく収まっています。その後、リリースタイムを極端に長く設定しています。次の拍までにコンプレッサーが解除されず、トランジェントが失われてしまっているのが聴き取れるはずです。
ニー
ニーは、信号がコンプレッサーのスレッショルドに近づいたときの挙動をコントロールします。多くのコンプレッサーは「ハードニー」を備えており、信号がスレッショルドを超えて初めてコンプレッサーが動作します。一方、「ソフトニー」を備えたものもあり、こちらは信号がスレッショルドに近づくにつれてコンプレッサーが徐々に効き始めます。

このパラメーターは、スレッショルド、レシオ、アタック、リリースの相互作用に繊細なニュアンスを加えます。ソフトニーはボーカルやアコースティック楽器など、自然なサウンドに適している傾向があります。
このサンプルの前半では、繊細なコンプレッションによってボーカルの最も音量が大きい数dBだけを捉え、残りはそのまま残しています。これでも問題ありませんが、ソフトニーを使えばよりスムーズな結果が得られるかもしれません。(ここではカスタマイズ可能なニー設定を備えたiZotope Neutron 4のコンプレッサーを使用しました)。サンプルの後半では、ソフトニーと高めのスレッショルドを採用しています。その結果、より滑らかで均一になり、サウンドに過度な色付けをすることなく極めて安定したダイナミクスが得られます。
メイクアップゲイン
メイクアップゲインは、コンプレッション処理が行われた後に信号レベルをどれだけ引き上げるかをコントロールします。これは極めて重要でありながら、見落とされがちなパラメーターです。コンプレッションは最も音量が大きい部分を下げるため、信号全体の音量が小さくなります。信号の音量を元に戻し、効果的なコンプレッションによる「音圧・ラウドネス」の恩恵を得るためには、メイクアップゲインが不可欠です。
また、コンプレッションを追い込む際にもメイクアップゲインは重要です。人間の耳には、通常、音量が大きい信号の方が良く聴こえ、小さい信号の方が悪く聴こえます。コンプレッション前後で信号のラウドネスが異なると、本当にサウンドが改善されたのか判断するのが難しくなります。コンプレッサーをオンにした状態と「バイパス」にした状態で信号が同じ音量になるようメイクアップゲインを調整しましょう。そうすることで、調整中に的確な判断を下すことができます。
このサンプルの最初では、ボーカルにはコンプレッションがかかっていません。2回目は、メイクアップゲインを調整せずにコンプレッションをかけています。信号はかなり小さくなっています。3回目は、ゲインを引き上げて補正し、信号を元のレベルまで戻しています。多くのコンプレッサーと同様に、iZotope Neutron 4 Compressorにはオートゲイン機能が搭載されており、メイクアップゲインを自動で調整してくれます。「Auto」をクリックするだけで、あとはプラグインにおまかせです。

コンプレッションの実践
この記事では、コンプレッションの基本概要、その目的、そして音楽制作で効果的にコンプレッションを使用する方法について解説しました。さらに詳しく知りたい方は、コンプレッションの基本Tipsもぜひチェックしてみてください。
スレッショルドとレシオの違いが理解できたら、いよいよご自身の制作でコンプレッションを活用してみましょう。VINTAGE COMPRESSORSは、3基の伝説的なスタジオコンプレッサーを最高峰のクオリティでエミュレートしており、意図を持った効果的なコンプレッションを行うために必要なツールがすべて揃っています。