減算方式シンセシス(サブトラクティブ・シンセシス)は、音作りの花形とも言える存在です。一般的にシンセサイザーと聞いて思い浮かべるのは、おそらく1970年代から1980年代のポップミュージックのエレクトロニックサウンドを決定づけた、名機と呼ばれる減算方式シンセでしょう。現代では、FMやウェーブテーブルなど多種多様なシンセシス方式が定着し手軽に利用できますが、減算方式シンセシスは今なお多くの音楽制作者にとって頼れる定番であり続けています。
その人気の秘訣はどこにあるのでしょうか?そして、ハードウェアであれソフトウェアであれ、減算方式シンセの魅力を最大限に引き出すにはどうすればよいのでしょうか?この記事では、減算方式シンセシスの仕組みを深掘りしていきます。減算方式シンセシスの基本的な仕組みから、シンセに搭載されている主要パラメーターの解説とそのクリエイティブな活用法、さらには減算方式シンセシスを使って効果的なベース、リード、パッドを作成するためのアイデアまで詳しくご紹介します。
Native Instrumentsの減算方式シンセサイザーMONARKを使って、このチュートリアルを一緒に進めてみましょう。
減算方式シンセシスとは?
減算方式シンセシスは、オシレーターで倍音豊かな波形を生成し、フィルターやエンベロープなどのコンポーネントを使って削るように音を整えていく音楽シンセシスの手法です。
三角波、ノコギリ波、矩形波、パルス波などの波形は倍音が豊富で、電子回路を使って比較的容易に生成できます。しかし、これらの音は単体ではそれほど面白いものではありません。フィルター、エンベロープジェネレーター、LFO、その他のコンポーネントを用いて周波数や振幅(音量)の時間変化をコントロールすることで、こうした基本的な波形を表情豊かなサウンドへと変化させることができます。
これこそが減算方式シンセシスです。大理石の塊から不要な部分を削り出して繊細な彫刻を作るように、不要な周波数成分を取り除く芸術とも言えます。
クラシックな減算方式シンセサウンドの好例が、Michael Jacksonの「Billie Jean」です。曲が始まって数小節後から入る特徴的なシンセコードは、Yamaha CS-80を使って作られました。
加算方式と減算方式の違い
減算方式シンセシスをより深く理解するには、その対極にある加算方式シンセシス(アディティブ・シンセシス)と比較してみるのがわかりやすいでしょう。
複雑な音は、純粋なサイン波(正弦波)や倍音の積み重ねに分解できます。これらサイン波の緻密な周波数と振幅が、音のキャラクターや音色を生み出します。もし電子的に音を作りたいなら、倍音を1つずつ積み上げてゼロから構築していくのが理にかなっていると考えるかもしれません。これこそが加算方式シンセシスの行うことです。多数のサイン波を足し合わせることで、複雑な波形を生成します。
しかし、この方式の問題点は非常に多くのリソースを消費することです。効果的な加算合成を行うには、目的のサウンドに含まれる倍音の数だけ、数十から数百ものオシレーターが必要になります。そのため、加算方式シンセシスが真価を発揮したのは、1980年代にデジタル技術が登場してからのことでした。
シンセシスの黎明期であった20世紀半ばには、当時の回路ではそのような処理に対応できませんでした。そこで研究者たちは逆のアプローチをとりました。比較的シンプルな電子回路を使い、三角波、矩形波、ノコギリ波といった倍音豊かな波形を生成したのです。そして、フィルター、エンベロープジェネレーター、LFOなどのコンポーネントを用いてそれらの波形を削り、魅力的なサウンドへと加工していきました。
減算方式シンセシスは、当時の技術的な制約に対するエレガントな解決策でした。また、特にアナログ回路においては、独特の心地よい「温かみのある」サウンドを生み出すという特徴もありました。減算方式シンセシスは70年代から80年代を通じてシンセシスの主流であり続けました。多種多様なシンセシス方式が利用できるようになった現代でも、エレクトロニックミュージック制作における定番の手法です。
減算方式シンセサイザーの仕組み
減算方式シンセサイザーは、オーディオ信号を生成し、それをさまざまな方法で加工することで動作します。減算方式シンセシスを理解するとは、この音の加工がどのように行われるかを理解することにほかなりません。
そのためには、波形を生成するオシレーターから、フィルター、エンベロープジェネレーター、LFOに至るまで、減算方式シンセのさまざまなコンポーネントを把握しておく必要があります。
サウンドは通常、決まった順序でこれらのコンポーネントを通過します(モジュラーシンセの場合は自由にルーティングを変更できます)。それでは、順番に見ていきましょう。

オシレーター
オシレーターは、減算方式シンセにおける根本的な音源です。シンセサウンドの土台を築く役割を果たします。
多くの減算方式シンセには複数のオシレーターが搭載されており、それらの信号をミックスできます。異なる波形やピッチのオシレーターを組み合わせることで、複雑なサウンドを作り出すことが可能です。

波形
波形はシンセシスの構成要素です。減算方式シンセには標準的な波形セットが備わっていることが多く、音を彫刻していくための豊かな倍音を提供してくれます。
その中でも最もメロウなのが三角波です。多くの減算方式シンセにおいて「純粋な」サイン波に最も近い波形であり、穏やかで滑らかなサウンドを作るのに最適です。
対照的に、ノコギリ波は鋭くざらついた質感を持ち、より力強くアグレッシブなサウンドに適しています。
矩形波も同様に明るいトーンですが、ノコギリ波とは異なるキャラクターを持っています。矩形波とノコギリ波を組み合わせて、太く重厚なレイヤーサウンドを作ってみましょう。
一部の減算方式シンセには、矩形波のバリエーションであるパルス波が用意されています。パルス幅(パルスウィズ)を可変できるモデルもあり、多彩な音色の可能性が広がります。
最後に、多くの減算方式シンセにはホワイトノイズやピンクノイズのジェネレーターが搭載されています。このモードではオシレーターがランダムに変動し、テレビやラジオの砂嵐のようなノイズ音を生成します。秩序ある三角波、ノコギリ波、矩形波にノイズを重ねることで、リードのアタック感を強調したり、パッドに空気感を加えたりするのに重宝します。
ピッチ
ピッチはオシレーターの周波数をコントロールし、キーボードやピアノロールで演奏した音程から微小に変化させることができます。例えば、440 Hzのラ(A)の音を入力した場合でも、ピッチコントロールを微調整してオシレーターから443 Hzや437 Hzの信号を出力させることができます。
この「デチューン」されたサウンドは、シンセパッチに独特のキャラクターを与えます。チューニングをわずかにずらした複数のオシレーターを重ねることで、最大の効果が得られます。
このオーディオ例では、まず同じピッチにチューニングされた3基のオシレーターが鳴ります。次にそのうちの2基がわずかにデチューンされ、最後に大きくデチューンされて不協和音による混沌としたサウンドへと変化します。
オクターブ
ピッチとオクターブのコントロールは切っても切れない関係にあります。どちらも異なるキャラクターを持つオシレーターを重ねて、サウンドに厚みを加えることができます。
ピッチがオシレーターを特定の音から数Hz単位でシフトさせるのに対し、オクターブは1オクターブ単位で上下に切り替えます。つまり、キーボードで弾いた周波数の半分(1オクターブ下)または2倍(1オクターブ上)の周波数をオシレーターが出力します。
2〜3オクターブ離れたオシレーターを重ねて、格別に分厚いサウンドを作ってみましょう。
このオーディオ例では、まずノコギリ波のオシレーター1基のサウンドが鳴り、続いて1オクターブずつ離して設定された3基のノコギリ波オシレーターが鳴ります。
フィルター
オシレーターによってサウンドが生成されたら、いよいよそれを削り出していく段階です。ここで「減算(サブトラクション)」が行われます。
フィルターは、加工前の素の信号を音楽的で表現力豊かなサウンドへと仕上げるための最も重要なコンポーネントです。
ほとんどの減算方式シンセには、ローパスフィルター(またはLPF)が搭載されています。これは、特定のカットオフポイントより高い周波数を減衰させ、低い周波数だけを通過させるものです。ノコギリ波や矩形波に含まれるギラついた高域を抑え、ミックスにすっきり馴染む心地よいサウンドを作るのに役立ちます。
不要な周波数を減衰させるフィルターの「傾斜(スロープの鋭さ)」は、フィルター設計によって異なります。多くの減算方式シンセでは、いくつかのスロープ特性を選択できます。例えば、Native InstrumentsのMONARKには、急峻な24 dB/octのスロープから緩やかな6 dB/octまで、3種類のローパスフィルターが用意されています。
このオーディオ例では、12 dB/octのスロープを持つフィルターのカットオフを徐々に下げています。
減算方式シンセの中には、他のフィルターモードを備えているものもあります。例えば、ハイパスフィルター(HPF)はLPFの逆で、低域を減衰させます。
MONARKにはバンドパスフィルター(BPF)も搭載されており、特定の狭い周波数帯域だけを通過させ、その上下の周波数を減衰させます。以下のように、劇的なスイープエフェクトを生み出すのに活用してみましょう。
知っておくべき最後のフィルターパラメーターは、レゾナンス(またはQ)です。レゾナンスを上げるとカットオフポイント周辺の帯域が強調され、フィルターの利きが際立ちます。極端にレゾナンスを高く設定するとサウンドに強烈なピークが生じます。Roland TB-303の叫ぶようなアシッドサウンドを思い浮かべてみてください。
こちらは先ほどのローパスフィルターで、レゾナンスを極めて高く設定したサウンドの例です。
アンプ
アナログ減算方式シンセサイザーでは、アンプがオシレーターからの電気信号のレベルをブースト(増幅)し、演奏やレコーディングに十分な音量にします。
デジタルシンセではこのレベルのブーストは不要ですが、アンプは依然として重要です。アンプを他のコンポーネントで制御(モジュレーション)することで、シンセサウンドの音量を時間経過とともに表現力豊かに変化させることができるからです。
アンプをモジュレーションする最も一般的な方法は、エンベロープジェネレーターを使用することです。その仕組みを見てみましょう。

エンベロープ
エンベロープは、時間経過に伴うサウンドの挙動をコントロールします。シンセ内の他のコンポーネントをモジュレーションし、演奏されるノートの立ち上がり、中間、減衰の各パラメーターを変化させることでこれを実現します。
多くの減算方式シンセは、アンプリチュード(アンプをモジュレーション)とフィルターカットオフの両方を制御するエンベロープを備えています。以下ではアンプリチュードエンベロープに焦点を当てますが、同じ原理がフィルターエンベロープにも当てはまります。(以下の例では、エンベロープの効果を分かりやすくするために、アンプリチュードとフィルターの両方のエンベロープを変更しています。)
エンベロープは通常、4つのステージに分かれています。これらは、演奏されるノートの立ち上がり(AttackとDecay)、中間(Sustain)、終わり(Release)に対応しています。これらのパラメーターを調整することで、シンセサウンドの立ち上がりを短く鋭くするか、ゆっくり穏やかにするか、またノートの終わりで素早く消えるか、余韻を残すかをコントロールできます。
Attack
Attackの設定は、ノートが無音から最初のピークに達するまでにかかる時間をコントロールします。アタックタイムが短いと急激なインパクトが生まれ、長いと緩やかなフェードインになります。この例では、まず短いアタックを聴くことができます。
Decay
Decayは、Attackの初期ピークに達した後、どれだけ速く音が減衰するかを決定します。Decayが短いと、アタック後に急激に減衰して「撥弦(プラック)」のような効果が生まれます。Decayが長いと、より滑らかな感触になります。
Sustain
Sustainは、ノートの中間部分で何が起こるかをコントロールします。ADSRエンベロープの他のパラメーターとは異なり、時間ではなく音量(dB)で測定されます。Sustainレベルが高いと、初期アタックの後もノートが十分な音量を維持します(持続するオルガンの音を思い浮かべてください)。Sustainレベルが低いと、アタックとノートの(より静かな)本体部分との間にコントラストが生まれます。Sustainがゼロの場合、Decay時間が経過すると音は完全に消えます。
Release
Releaseは、鍵盤から指を離した後にノートがどれだけ長く残り続けるかをコントロールします。リリースタイムが短いとノートは素早く減衰して無音になります。リリースタイムが長いと、パッチに漂うような余韻が生まれます。
LFO
LFOとは、Low Frequency Oscillator(低周波発振器)の略です。これまで見てきた他のオシレーターとは異なり、LFOは非常にゆっくりと発振するため、人間の耳には音として聴こえません。その代わりに、エンベロープジェネレーターがアンプリチュードやフィルターカットオフを時間経過とともに変化させるのと同様に、このうねるような信号を使って減算方式シンセの他のコンポーネントをモジュレーションできます。
ほとんどの減算方式シンセでは、LFOを割り当ててさまざまなコンポーネントをモジュレーションできます。割り当て先によって異なるエフェクトが生まれます。例えば、LFOをオシレーターのピッチに接続するとビブラート(揺らぎ)効果が得られます。アンプリチュードに接続するとトレモロ(信号の音量が上下する効果)が生まれます。LFOをフィルターカットオフに接続すると、フィルタースウィープ効果が生まれます。
こちらはビブラート(LFOがオシレーターピッチをモジュレーション)、続いてフィルタースウィープ(LFOがフィルターカットオフをモジュレーション)の例です。
減算方式シンセシスの活用法
減算方式シンセシスの仕組みが理解できたら、実際にサウンドを作ってみましょう。オシレーターの設定から始まり、フィルター、エンベロープ、LFOへと進む上記の段階を踏むことで、強力な減算方式シンセパッチをすぐにプログラムできるようになります。手始めに試せるいくつかの例を以下に紹介します。
これらの例では、Native Instrumentsの図太いサウンドを誇る減算方式シンセ、MONARKを使用します。象徴的なアナログモノシンセをモデルにしたMONARKは、クラシックなアナログ減算方式のシグナルフローレイアウトをコンパクトなバーチャルパッケージで再現しています。
重厚なベース
減算方式シンセシスの丸みのあるサウンドは、ベースに最適です。トラックの低域を埋める、太くデチューンされたベースサウンドを作成してみましょう。

太いサウンドを作るには、2つのオシレーターが必要です。ミキサーセクションでOscillator 1と2の両方がオンになっていることを確認し、それぞれで異なる波形を選択します。例えば、Oscillator 1には矩形波、Oscillator 2にはノコギリ波を設定してみましょう。
パワフルな効果を得るために、異なるオクターブに設定します。Oscillator 1を32'、Oscillator 2を16'に設定しましょう。
さらに太さを出すために、一方のオシレーターをデチューンします。Oscillator 2のPitchノブを中央からほんの少しだけ左に調整してください。
次はフィルターです。ローパスフィルターLP2を使用し、Resonanceを9時方向あたりまで上げます。次に、高音域を滑らかにするため、Cutoffノブを12時方向の少し上まで下げます。
これで完了です。実際のサウンドを聴いてみましょう。
パンチの効いたリード
今度は、エンベロープジェネレーターとノイズを使って、パンチの効いたリードサウンドを作り込んでみましょう。

今回もOscillator 1と2を使用し、それぞれ異なる波形に設定して1オクターブ離し、一方をわずかにデチューンします。
このリードにはタイトな輪郭が必要なため、エンベロープジェネレーターを使ってサウンドの時間的変化を整えましょう。
まずはアンプリチュードエンベロープです。タイトでパンチのあるサウンドにするため、Attackは左いっぱいに設定しておきます。アタックがわずかに際立つよう、Sustainを最大値から少し下げましょう。
次にフィルターを設定します。急峻なMMローパスフィルターを使用し、Resonanceを10時方向付近に設定して、Cutoffを信号がほとんど聴こえなくなるくらいまで大きく下げます。
次にContourコントロールを上げます。これによりフィルターエンベロープが機能し始めます。
フィルターエンベロープを調整しましょう。アンプリチュードエンベロープと同様に、パンチの効いた立ち上がりにするためにAttackを最短にし、Decayを中間付近に設定します。ただし今回は、鍵盤を押したままにしたときにフィルターカットオフが低い位置にとどまるよう、Sustainを大きく下げます。
続いてノイズを加えます。ノイズジェネレーターの横にあるボタンを押し、音に鋭さを加えるためにほんの少しだけノイズレベルを上げましょう。
これでパンチの効いたアナログスタイルのリードサウンドの完成です。
ローファイなパッド
クラシックなアナログ減算方式シンセの多くと同様に、MONARKはモノフォニック(単音)仕様です。つまり、一度に1つの音しか発音できません(5つの鍵盤を押すと同時に5つの異なる音が鳴る「ポリフォニック」シンセとは異なります)。
これはベースラインやリードのような単音パートに適しています。しかし、MONARKの複数のオシレーターを利用して、独特なコードのような効果を生み出すことも可能です。このテクニックを使って、ローファイなパッドを作ってみましょう。

3基のオシレーターをすべて有効にし、それぞれに異なる波形を割り当てます。すべて同じオクターブ(例えば16')で演奏されるように設定しましょう。
注意:Oscillator 3の上にあるK.T.(キートラッキング)スイッチがオン(黄色)になっていることを確認し、モジュレーター信号ではなく通常のオシレーターとして動作するようにしてください。
コード効果を生み出すために、2基のオシレーターをデチューンします。Oscillator 2のチューニングノブを-7まで下げ、Oscillator 3を5付近まで上げてください。
アンプリチュードエンベロープを使って、サウンドに滑らかでパッドらしい輪郭を与えます。AttackとDecayを中〜長め(約1秒程度)に設定し、Sustainはゼロまで下げます。
次にフィルターに移りましょう。バンドパスフィルターを使うと、サウンドに儚げで漂うような浮遊感が加わります。「BP」を選択し、Cutoffを10時方向付近に設定します。
フィルターに動きを加えます。Contourノブを上げ、フィルターエンベロープをアンプリチュードエンベロープと同じ設定(中〜長めのアタックとディケイ、サステインはゼロ)にします。
最後にGlideノブを高めに設定し、ノート間に滑らかなグリッサンドを生み出しましょう。
こちらがそのサウンドです。
減算方式シンセシスの実践
本記事では、減算方式シンセシスの基本から仕組み、そしてサウンドメイキングの可能性まで詳しく解説しました。減算方式シンセシスを熟知した今、ご自身の楽曲制作でぜひ活用してみてください。
MONARKで象徴的なアナログ減算方式シンセシスのサウンドを探求するか、Native Instrumentsのその他のプロ仕様シンセVSTをご覧ください。