|Native Instruments

加算合成とは?

シェア リンクをコピーしました
What is additive synthesis?

加算合成(アディティブ・シンセシス)は、減算合成やFM合成といったシンセサイザー音源の代表格と比べると、あまり深く理解されていないことが少なくありません。しかし効果的に活用すれば、他の手法では再現が難しい、力強く精緻に作り込まれたサウンドを生み出す強力なツールとなります。では、加算合成とは具体的にどのようなもので、どのような仕組みで機能するのでしょうか?

この記事では、加算合成の基礎となる理論と技術を探求し、その歴史や現代の音楽制作における活用法について解説します。さらに、加算合成のシンプルな応用例を取り上げ、Native Instrumentsの加算合成シンセサイザーRAZORを使って、わずか数ステップで印象的なサウンドを作り出す方法をご紹介します。

目次:

RAZORを使ってこのチュートリアルを実践してみましょう。
 

RAZORを手に入れる

加算合成とは?

加算合成を理解するために、より広く知られている手法である減算合成(サブトラクティブ・シンセシス)と比較してみましょう。減算シンセは、まず矩形波やノコギリ波のような豊かで倍音を多く含んだ波形を生成します。そしてエンベロープやフィルターなどを用いて、不要な帯域を削ぎ落とす(減算する)ことでサウンドを彫刻していきます。

加算合成はその逆のアプローチを取ります。複雑なサウンドから削り出していくのではなく、倍音(ハーモニクス)を1つずつ積み重ねることで、ゼロからサウンドを構築していきます。

倍音(ハーモニクス)の理解

その仕組みを理解するには、倍音の概念を把握する必要があります。複雑な波形はすべて、周波数と振幅(音量)が異なる複数のサイン波の積み重ねへと分解できます。

矩形波やノコギリ波などの倍音成分を含む波形には、「基本周波数」と呼ばれるサイン波が含まれています。これはサウンドの中で最も低い周波数であり、私たちが音高(ピッチ)として認識するものです。第1倍音とも呼ばれます。

その上には、その初期周波数の整数倍のサイン波(倍音)が積み重なっています。たとえば、100 Hzのノコギリ波には、100 Hzの基本周波数が含まれ、その上に200 Hz、300 Hz、400 Hzといったサイン波(倍音)が続き、周波数が高くなるにつれて音量は小さくなっていきます。

これらの高次倍音がどれだけ含まれ、どのような音量バランスになっているかによって、サウンドの音色や個性が決まります。たとえば矩形波には、第1倍音の奇数倍の倍音(300 Hz、500 Hzなど)のみが含まれます。

ノコギリ波の倍音構造
ノコギリ波の倍音構造

加算合成の仕組み

加算合成はこの原理を活用し、構成要素となる各倍音の周波数と振幅(音量)を精密に制御することで、ゼロからサウンドを組み立てていきます。

もちろん、矩形波やノコギリ波を作るためだけにこれを行うのはかなり遠回りです。それなら使い慣れた減算シンセを使った方が手っ取り早いでしょう。しかし、内部構造に踏み込んでサウンドの個々の倍音を制御することで、おなじみの音色をはるかに超えた、他の合成方式では生み出しにくいサウンドを作り出すことができます。

時間経過に伴う各倍音の相対的な振幅を変化させたり、非整数倍音(チューニングから外れた分音)を取り入れたりすることで、緻密な設計に基づいた豊かで個性的なサウンドを作ることができます。

加算合成の歴史

加算合成は、減算合成やFM合成ほど広く普及してはいないかもしれません。しかしその根底にある原理は、楽器設計の長い歴史の中に深く根づいています。

考えてみれば、教会のパイプオルガンはある種の加算シンセと言えます。パイプの各列は異なる倍音に対応しており、オルガン奏者はストップを引くことでこれら倍音を組み合わせ、多彩な音色を作り出します。この手法は、Hammondオルガンのような電気機械式オルガンによってエレクトロニクス時代へと受け継がれました。Hammondでは、各ドローバーが異なる倍音に対応しています。単体で聴くと、Hammondのオシレーターは純粋なサイン波に近いトーンを持っています。これらを他のオシレーターと組み合わせることで、豊かで太く、自在に変化させられるサウンドが生まれます。

倍音による音色生成を示すヴィンテージHammondオルガンの鍵盤とドローバー
Hammondオルガン

もちろん、Hammondのオシレーターが生み出すトーンは数学的に純粋なサイン波ではありません。また、ユーザーがそれらのオシレーターに対して行える制御も限られていました。真の加算合成に求められる条件、すなわちそれぞれ独立したエンベロープを備えた数十〜数百基ものオシレーターを駆動させることは、アナログ時代には現実的ではありませんでした。

手頃な価格のデジタルシンセが登場したことで、63基のオシレーターを搭載したKawai K5などが加算合成を広く普及させました。それでも、限られたオシレーター数と制御機能により、サウンドはやや硬質で繊細なものにとどまりました(もっとも、今となってはそれがヴィンテージならではの魅力となっています)。

ソフトウェア時代における加算合成

加算合成は現代において大きな進化を遂げました。それは極めてシンプルな理由によります。オシレーターの数が多く、ユーザーによる制御が細やかであるほど、加算シンセにできることは飛躍的に増えるからです。ノートPCのCPUだけが限界となるソフトウェア環境では、その可能性は無限に広がります。

NIは2つの加算合成ソフトウェアシンセを開発しています。1つはKOMPLETE STARTで無料提供されているLAZER BASS、そしてもう1つがRAZORです。RAZORは2011年のリリース以来、音楽制作に決定的な影響を与えてきました。Erik Wiegand(別名Errorsmith)によって設計されたRAZORは、最大320基の独立したオシレーターを駆動可能で、スマートなインターフェイスによりノブを回すだけで各オシレーターに複雑な変化を加えることができます。

こうした「古典的」な加算合成の機能にとどまらず、Wiegandは加算エンジンを新たな領域へと押し上げ、RAZORのオシレーターを使ってフィルターやリバーブエフェクトなどの挙動をシミュレートできるようにしました。その結果、極めて高精度でユニークなサウンドが生まれ、サウンドデザインと音楽制作の双方に刺激的な可能性をもたらしています。

加算合成の使い方

加算合成の仕組みが理解できたところで、実際にどう活用すべきでしょうか?独自のアプローチを持つ加算シンセは、特定の用途において真価を発揮します。RAZORを使い、シンセのポテンシャルを存分に引き出すためのアイデアをいくつかご紹介しましょう。

ベル系トーン

サウンドの非整数倍音を自在に制御できる加算合成は、ベルの音のようなデチューンされたサウンドの制作に最適です。RAZORならデチューンも簡単です。「dissonance effects」セクションには、不協和音や非整数倍音を含む独特なサウンドを作り出す多彩なエフェクトが揃っています。

わずか数ステップで、シンプルかつパンチのあるベル系トーンを作る手順は以下の通りです。

ベル系トーンを作成するために設定されたNative Instruments RAZORソフトウェアのインターフェイス
RAZORでベル系トーンを作成
  1. まず1基のオシレーターを立ち上げ、アタックを短く、サステインをゼロにし、ディケイとリリースをやや長めに設定します。
  2. 次にdissonance effectを選択します。ここでは「stiff string」を選びました。amountの値を上げると、各分音が基本周波数との整数倍の関係から外れ、心地よい不協和音を好みに応じて加えることができます。
  3. 異なる波形を持つ2基目のオシレーターを追加してratioを上げ、さらに厚みのあるデチューンサウンドを作ります。2つ目のエンベロープでこのオシレーターの振幅を制御するように設定し、ベルの音にタイトなアタック感を与えましょう。
  4. 仕上げとして、「stereo effects」セクションでリバーブを加えます。(ちなみに、これは一般的な意味でのリバーブではありません。RAZORのリバーブは加算エンジンによって合成されており、独特な質感と挙動をもたらします。)

完成したベル系トーンのサウンドはこちらです。

独創的なサウンドデザイン

加算合成によるデチューンの可能性は、単なる隠し味にとどまりません。

数百基ものオシレーターを同時に変調させ歪ませることで、他の手法では得られない精密さとクリアな音質を備えた、驚愕のサウンドデザインを実現できます。

RAZORを使って、群れが押し寄せるような「宇宙船の着陸」エフェクトを作成する手順をご紹介します。

RAZORでのサウンドデザイン
RAZORでのサウンドデザイン
  1. シンプルな波形から始めます。標準的なノコギリ波で十分です。
  2. dissonance effectを適用します。今回はサウンド内のすべての分音の周波数を等しい値だけシフトさせる「frequency shift」を使用します。これにより、従来のピッチシフト・アルゴリズムとは一線を画すグリッサンド効果が得られます。(極端なピッチシフトにつきものの音質劣化もありません。)
  3. 最後に動きをつけます。非常に遅いアタックのエンベロープをshiftの「amount」とローパスフィルターのカットオフに割り当て、ゆっくりとしたスライドから演奏した音程へと徐々に収束する変化を作り出します。

完成したサウンドはこちらです。

個性的なパッド

加算合成はサウンドの構成要素を時間軸に沿って制御できるため、豊かに変化し続けるパッドサウンドの制作にも威力を発揮します。ここでは、RAZORの個性的な機能の1つである、波紋のように揺れる波の挙動を模倣した「waterbed filter」を活用してみましょう。なお、これも実際には物理的なフィルターではなく、RAZORの数百基のオシレーターが振幅を変化させることでフィルターの挙動を再現しており、唯一無二の効果をもたらします。

不思議な波紋効果を持つパッドサウンドの作成手順は以下の通りです。

RAZORでパッドサウンドを作成
RAZORでパッドサウンドを作成
    1. 好みの波形を選びます。ここでもノコギリ波で問題ありません。
    2. 2つ目のフィルターセクションで「waterbed filter」を選択します。
    3. フィルターの「level」コントロールをゆっくり動くLFOに接続し、演奏しながら「freq」コントロールを手動で動かして、不規則な波紋効果を生み出します。
    4. 最後に、「stereo effects」セクションからコーラスをわずかに加えて、サウンドに深みを与えます。

完成したパッドのサウンドはこちらです。

加算合成を始めよう

このチュートリアルでは、加算合成の基礎知識、その歴史、そして現代の音楽制作における活用法について解説しました。RAZORをダウンロードして、加算シンセの旅を始めましょう。思いもよらない驚きのサウンドがすぐに作れるようになります。
 

RAZORを手に入れる

関連製品