「サイドチェーン・コンプレッション」という言葉に馴染みがなくても、きっと誰もが一度はそのサウンドを耳にしたことがあるはずです。キックドラムが力強く前に出るたびに楽曲の他のパート全体が一瞬引き戻されるようなダンストラックや、キックが鳴るたびにトラック全体を飲み込むような「ウワッ」と息を呑む効果。それこそが、サイドチェーン・コンプレッションのサウンドです。
サイドチェーン・コンプレッションは、ミックス内でスペースを確保したり、帯域がぶつかり合うサウンドのマスキングを解消したり、あるいはサウンドにクリエイティブな彩りを添えるための便利なツールとしても機能します。
この記事では、サイドチェーン・コンプレッションを活用してミックスを向上させ、楽曲にグルーヴ感を加え、ボーカルにユニークなエフェクトを施す方法をご紹介します。
サイドチェーン・コンプレッションについて学ぶ:
KONTAKT、MASSIVE X、SOLID DYNAMICS、Neutron 4を用意して、このチュートリアルを一緒に進めましょう。
サイドチェーン・コンプレッションとは?
サイドチェーン・コンプレッションとは、あるサウンド(「サイドチェーン」)で別のサウンド(「ターゲット」)の音量をコントロールする、オーディオ制作の手法です。通常のコンプレッションはその信号自身のレベルに応じてダッキング(音量を下げること)を行うのに対し、サイドチェーンでは別の信号を使って処理対象のレベルをダッキングします。サイドチェーン信号には一般的にキックドラムのようなリズミカルまたはパーカッシブなサウンドが使われ、パッドやリードといった持続音インストゥルメントなどのターゲットサウンドの音量をモジュレーションします。これにより、キックが鳴るたびにベースラインやキーボードのパターンが「沈み込む」ような効果が生まれます。
サイドチェーン・コンプレッションのその他の用途として、ミックス内のサウンド同士を自然に馴染ませ、お互いを引き立て合わせることが挙げられます。また、ボーカルの存在感を際立たせたり、リバーブの表情をユニークに変化させたりするクリエイティブなエフェクトとしても活用できます。
次のステップでは、様々な楽器にサイドチェーンを適用して、ミックスに新たな音像を生み出す方法を見ていきましょう。
キックとベースのサイドチェーン
サイドチェーン・コンプレッションは、同じような周波数帯域を占める2つの信号をミックスする際に極めて大きな効果を発揮します。その代表例がキックとベースの信号です。まだご覧になっていない方は、iZotopeのチュートリアルキックとベースのミキシング方法 をチェックして、基本的な手法を確認してみてください。
ここでは、MASSIVE Xのベースを使用しています。パターンはとてもシンプルです。
また、シンプルなキックも用意し、これをトリガーとしてMASSIVE Xのベースにサイドチェーン・コンプレッションをかけます。ベーストラックにSOLID DYNAMICSをインサートし、入力としてキックチャンネルを選択します。次に「SC Gain」コントロールを有効にし、好みのサウンドになるまでThreshold、Attack、Ratioを調整します。

ベースにサイドチェーンがどのように作用しているか聴いてみましょう。
次に、キックと合わせたときの効果を聴いてみましょう。
キックとキーボード/シンセのサイドチェーン
サイドチェーン・コンプレッションが役立つもうひとつの場面は、壮大なコード演奏がミックスの多くのスペースを占めている場合です。こうしたキーボードはキックのローエンドと必ずしも直接ぶつかるわけではありませんが、サイドチェーン・コンプレッションを使うことで、トラック全体とのグルーヴ感をより高めることができます。
ベースラインと噛み合うキーボードパターンとキックがこちらです。このシンプルなコード進行は、モジュラーシンセからサンプリングされた暖かく分厚いアナログサウンドを収録したKONTAKTライブラリ、MODULAR ICONSで作成しました。

これは存在感のあるコードで、ミックス全体を覆ってしまっています。そのため、まずはローエンドを少しカットして、キックとベースのためのスペースを確保することから始めましょう。

これによりキーボードが少し引き立ちましたが、全体としてはやや硬い印象を受けます。キックとキーボードがうまく連動してうねっていません。そこで、ベースで行ったのと同じ手法を使い、キックのアタックに合わせてキーボードにサイドチェーン・コンプレッションをかけます。そのサウンドがこちらです:
良い感じになりました。そこで、動きをより滑らかにするために、リバーブを少し加えてバランスを取りましょう。リターンチャンネルを作成し、そこにリバーブプラグインRAUMをインサートします。

キックからのサイドチェーンとリバーブを加えたサウンドがこちらです。
グルーヴ感が出てきました。キックとベースのスペースを確保しつつ適度な厚みがあり、ビートに合わせてポンピングしながらもリバーブの中に心地よく広がり、広大で豊かな響きが得られています。キックはミックスの前面にしっかりと抜けつつ、他の要素を無駄に遮ることもありません。
ボーカルのサイドチェーン
サイドチェーン・コンプレッションは、単にミックスの各要素を組み合わせるだけでなく、実に多様な使い方ができます。これまで見てきたように、グルーヴを加えたり、パーカッションをミックスの前方に押し出したりすることが可能です。インストゥルメンタルトラックには最適ですが、ボーカルとなると、ミックスの中で適切にフォーカスを当てる必要があります。
素晴らしいソロパフォーマンスであるこちらのボーカルトラックを見てみましょう。iZotopeの無料Vocal Doublerプラグインを追加することで、サウンドに奥行きと磨きをかけ、少し厚みを持たせることができます。

キーボードに心地よいリバーブがかかっているので、ボーカル専用のリバーブチャンネルを用意して、ボーカルがミックスにより馴染むようにしましょう。センド/リターンをもう1系統作成し、そこにRAUMを適用します。そのサウンドがこちらです。
リバーブが深くかかりすぎているように聴こえます。ボーカリストのパフォーマンスが持つ存在感や力強さが少し損なわれてしまっています。しかし、サイドチェーン・コンプレッションを使えば、ボーカル自身のリバーブの中からボーカルをしっかりと際立たせることができます。
ボーカル専用リバーブを配置した同じリターンチャンネルにSolid Dynamicsコンプレッサーをインサートし、ボーカル信号そのものをサイドチェーンとして設定します。リバーブの直後にSolid Dynamicsを配置し、サイドチェーン入力をボーカルチャンネルに設定します。こうすることで、歌声が入ってきたときにリバーブの扉を開閉するような、より劇的な効果を狙います。これにより、リバーブがボーカルのパフォーマンスを邪魔することなく、言葉と言葉の間のスペースを美しく埋めてくれます。
リバーブ単体の場合と、ボーカルでサイドチェーンをかけた場合の違いを聴いてみましょう。
ボーカルがミックス全体とも調和しているか確認しましょう。リバーブを一旦外してキーボードとの重なり具合を聴いてみると、まだ調整が必要なことが分かります。キーボードと綺麗にハーモニーを奏でてはいるものの、ミックスに自然に溶け込んでいるというよりは、ミックスの上にポンと乗っかっているような印象を受けます。
ボーカルをミックスの前方に配置しつつ、他の要素とも馴染ませたいところです。そこでキーボードチャンネルに別のコンプレッサーをインサートし、これをボーカルでコントロールします。狙いは、ボーカルとキーボードがマスキングを起こしやすい周波数帯域にスペースを作ることです。Neutron 4のコンプレッサーを使い、入力にボーカルチャンネルを選択し、Neutron 4コンプレッサーのBand 2のトリガーとして「Ext Band 2」を選択します。これにより、ボーカルの中音域だけがキーボードの中音域をダッキングするようになります。こうすれば、マスキングの影響が少ない帯域では2つのチャンネルが共存し、ボーカルを優先させたい中音域では互いにぶつかり合わなくなります。

これだけ何度もサイドチェーン・コンプレッションを重ねるとキーボードの開放感が失われてしまうのではないかと思われるかもしれませんが、キーボード単体で音を聴いて確認してみましょう。キックとボーカルの両方からサイドチェーン・コンプレッションがかかったキーボードのラインがこちらです。
キーボードは複数のかたちでダッキングされていますが、確かなグルーヴ感があり、コード進行も明瞭に聴こえます。このKontaktパッチはキックとベースのスペースを残しつつ、ボーカルを邪魔することなくしっかりと支えています。わずかにリバーブを加えることでステレオ感を保ち全体に動きを与えつつも、トラックの重要な要素の邪魔をすることはありません。
マスターチャンネルにOzone 10をインサートして全体をひとつにまとめ、Master Assistantを活用して最適な設定を見つけましょう。
サイドチェーン・コンプレッションの活用
完成したサウンドがこちらです!ボーカルがミックスの前面に心地よく収まり、キックはトラックの勢いを維持するのに十分な力強さでしっかりと抜けているのがわかります。キーボードはグルーヴをキープし、パーカッションやボーカルといったより重要な要素の邪魔をすることなくコード進行を響かせています。ひとつのリバーブがキーボードに空間的な広がりを加え、もうひとつのリバーブはボーカルの存在感を中心に据えたまま、幻想的で渦巻くような余韻を与えています。
サイドチェーン・コンプレッションを活用することで、このトラックの各要素にミックス内での適切な居場所を与えながら、すべてが完璧にその役割を果たせるようになりました。
音楽制作についてさらに詳しく知るには、ビートメイキング・ガイドをチェックし、トラックに空間と奥行きを生み出すリバーブの使い方について学んでみましょう。