プロデューサーなら、ミックスにおいてコンプレッションがいかに重要であるかを耳にしたことがあるでしょう。コンプレッションはサウンドを整え、ダイナミックレンジを狭めてトラック内にオーディオを自然に収める役割として知られています。それは事実であり、理解しておくべき重要なポイントです。しかし、コンプレッションはトーンやテクスチャーを形成するためのクリエイティブなツールとしても活用できます。豊かな倍音を含んだサウンドを作り出し、トラックに繊細な温かみを加えることも可能です。
360 Essentialsサブスクリプションに含まれるプラグインを使ったコンプレッションテクニックを活用すれば、トラックにアナログスタイルのサチュレーションを加え、ミックスの倍音の質感を高めることができます。単なるレベル調整にとどまらず、個性際立つサウンドデザインに踏み込む5つのコンプレッション活用法をご紹介します。
セクション一覧:
360 Essentialsサブスクリプションを使って、このチュートリアルを一緒に試してみましょう。
コンプレッションとは?
コンプレッションとは、信号のダイナミックレンジを狭めるオーディオエフェクトです。言い換えれば、音の大きい部分を小さくし、小さい部分を大きくする効果を持ちます。

上の図を見ると、同じ波形にコンプレッションを適用したことで、オーディオのレベルが均一化されていることがわかります。静かな部分は持ち上げられ、逆に大きな部分は抑えられています。
しかし、コンプレッサーの種類や設定次第で、単なる音量コントロールを遥かに超えた効果が得られます。強く負荷をかけると、多くのコンプレッサーは高調波歪み(ハーモニックディストーション)を発生させ始めます。これにより信号に繊細な色付けが加わり、より温かみのあるサウンドになります。多くのバーチャルコンプレッサーは、このアナログサチュレーションをシミュレートするように設計されています。
コンプレッションが倍音を生み出す仕組み
コンプレッサーを使用するとき、変化しているのはダイナミックレンジだけではありません。実際には音の波形そのものを変形させています。そして、波形の形状を変えるということは、常に歪みを加えていることになります。それは激しいファズのような歪みではなく、サウンドに色彩感を与える繊細な高調波歪みです。
この現象が起きるのは、コンプレッサーが音量を瞬時かつ均一に変化させるわけではないからです。時間経過に応じて反応し、そのレスポンスによって音波のさまざまな部分が押し引きされます。コンプレッサーの反応速度が速いほど(ファストアタック設定など)、波形の歪みは大きくなり、特に低音域で多くの倍音が発生します。
非常に遅いコンプレッションであっても、このような変化は生じます。つまり、コンプレッションを施すときは常に、わずかながらトーンも整えているのです。よく耳にする温かみやパンチ感、あるいは「まとまり感(グルー感)」のあるサウンドは、単なる音量コントロールによるものではありません。倍音成分が再構築された結果なのです。
豊かな倍音を生み出すコンプレッションテクニック
5つのクリエイティブなコンプレッションテクニックを活用して、コンプレッションを自在に操る方法を見ていきましょう。
1. Supercharger GTでドラムに温かみとパンチを加える
多くのジャンルにおいて、グルーヴの核となるのはドラムです。コンプレッションは、ドラムサウンドをエネルギッシュで際立った存在へと高める有効な手段です。Supercharger GTを使用すれば、倍音による重厚感とアナログライクな質感を手軽に付加できます。
まずはドラムトラックにSupercharger GTをインサートしましょう。ここでは「Ghetto Drums」プリセットをベースに、少し微調整を加えます。

「Ghetto Drums」プリセットから始めて、画像のようにパラメーターを調整すると、同様のサウンドを再現できます。
ここではコンプレッサーをかなり深めに設定し、一般的なサチュレーターとは一味違う、高密度のサチュレーション効果を引き出しています。
こちらがコンプレッサー適用前のドラムサウンドです:
そしてこちらがSupercharger GTを適用したサウンドです:
もちろん、これはかなり歪んだサウンドです。Mixノブでウェット音の割合を抑えれば、より繊細なニュアンスでエフェクトを活用できます。
2. マスターバスでbx_glueを使い、アナログ的な一体感を演出
コンプレッションは個別のトラックに使うだけのものではありません。バス経由、あるいはマスターバスそのものに適用してミックス全体をまとめるのにも非常に効果的です。コンプレッサーが複数のトラックに作用し、すべての音が一定のレベルを超えないように抑えることで、各パートが一体となって接着されたような感覚(グルー感)が生まれます。
bx_glueコンプレッサーは、アナログコンソールに搭載されているクラシックなバスコンプレッサーの挙動を再現しつつ、現代的なコントロールを備えるよう設計されています。丹念に作り上げたミックスの明瞭度を損なうことなく、一体感とトーンを加えることができます。
全トラックをまとめたステレオバスにコンプレッサーをインサートし、以下のように設定します。バストラックでは低めのレシオを使用するのが一般的ですが、それはあくまで目安にすぎません。常に耳で判断し、最も心地よく聴こえる設定を見つけましょう。

「Auto」出力レベル機能を活用しましょう。これにより、音量の変化に惑わされることなく、コンプレッサー本来のサウンドの変化を正確に確認できます。
マスターバスにbx_glueを追加するとどう変化するか、聴いてみましょう。
まずはマスターにコンプレッションをかけていないトラックです:
「Auto」出力レベル機能を活用しましょう。これにより、音量の変化に惑わされることなく、コンプレッサー本来のサウンドの変化を正確に確認できます。
マスターバスにbx_glueを追加するとどう変化するか、聴いてみましょう。
まずはマスターにコンプレッションをかけていないトラックです:
続いて、bx_glueを追加してみましょう:
変化はとても繊細に感じられるかもしれませんが、コンプレッサーが各トラックのピークを抑え、微小な信号を持ち上げることで、ミックス全体に心地よい一体感をもたらしています。
3. Supercharger GTでボーカルのキャラクターと色彩を強調
ボーカルは、コンプレッションによる倍音の付加やダイナミクス制御の効果が最も顕著に現れるパートの1つです。ボーカルトラックに適切なコンプレッションを施すことで、真空管の温かみと存在感を加え、パフォーマンスを親密かつ洗練された響きに仕上げることができます。さらに、ボーカルがミックスにしっくりと馴染むようになります。
実際の効果を確かめるために、ボーカルトラックにSupercharger GTをインサートしてみましょう。「Vocal」プリセットからスタートし、理想のトーンになるよう設定を微調整します。

Supercharger GTは、ボーカルを際立たせるために必要な倍音サチュレーションを付加します。
透明感のあるデジタルコンプレッサーとは異なり、Supercharger GTは耳障りなトーンを与えることなく中音域の明瞭度を高めるサチュレーションによって、ボーカルを表情豊かに彩ります。
こちらがボーカルにコンプレッションをかけていないループです:
次に、Supercharger GTで温かみと色彩を加えてみましょう:
コンプレッサーをオンにすることで、ボーカルが他の楽器に埋もれず前面に引き立つと同時に、ミックス全体にも自然と馴染みます。
4. Guitar Rig 7のコンプレッションでサウンドの輪郭を際立たせる
Guitar Rig 7 LEのTube Compressorも、トラックに高品質なアナログコンプレッションを取り入れる素晴らしい手段の1つです。

Guitar Rig 7 LEには、あらゆる楽器に適用できるダイナミクスエフェクトが備わっています。
ギタートラックでGuitar Rig 7を使うのはもちろん定番ですが、Massive Xなどのシンセサイザーといった少し意外な音源に適用するとどうなるでしょうか?
こちらがMassive Xで作成したベースパッチです:
では、Guitar Rig 7 LEを介してTube Compressorをインサートしてみましょう:
ベースパッチの倍音成分が前面に押し出され、サウンド全体の印象が大きく変化しました。これはトラック内に倍音の存在感を作り出し、音量を上げることなく繊細な要素をミックスの中で際立たせる非常に効果的な手法です。
ただし注意も必要です。このような極端なコンプレッションは、不要なノイズや成分のレベルも持ち上げてしまう可能性があります。
5. パラレルコンプレッションでミックスに太さを加える
パラレルコンプレッションは、原音(ドライ音)に深くコンプレッションをかけた信号をブレンドする、スタジオ定番のテクニックです。自然なダイナミクスを保ちながら、コンプレッションによる確かな重厚感とサチュレーションを付加できます。ここまで紹介した中でお好みのコンプレッサーを使用できますが、過度に透明すぎないキャラクターを持つものを選ぶのがコツです。
まずはリターントラックにコンプレッサーをインサートし、トラックがプリフェーダーモードに設定されていることを確認しましょう。

このようにリターントラックを使用することで、元のトラックから送られる信号がドライトラックのフェーダー音量に左右されないようになります。
次に、ドラムトラックの信号を100%リターントラック(またはバス)へ送ります。音量が大きくなる可能性があるので注意してください。ドライ信号とコンプレッション信号が綺麗に馴染むよう、それぞれのフェーダーでバランスを調整しましょう。

コンプレッサーがインサートされたリターントラックBに信号を送ります。
こちらが完全にドライなドラム信号です:
そしてこちらがパラレルコンプレッションを施した信号です。
最後に、両者をブレンドしたサウンドをお聴きください。
原音のナチュラルな質感を保ちながら、サチュレーションとインパクトが加わり、より太く倍音の密度が高いサウンドに仕上がりました。
コンプレッションテクニックを試してみよう
コンプレッションは優れたミキシングツールですが、倍音豊かなサウンドを生み出す起点にもなります。Supercharger GT、Guitar Rig 7、bx_glueなどのプラグインを使えば、単なるダイナミクスコントロールをはるかに超えた音作りが可能です。
360 Essentialsサブスクリプションでこれらのテクニックを試し、じっくりと耳を傾けてみてください。クリエイティブなコンプレッションテクニックによって、どれほど豊かな倍音キャラクターが生まれるかに驚くはずです。