始めたばかりの頃は、音楽制作に敷居の高さを感じるかもしれません。マニュアルやチュートリアルには専門用語や見慣れない略語が溢れています。「VST」もその1つです。Ableton LiveやFL StudioのようなDAWを触ったことがある方なら、おそらくVSTプラグインを使ったことがあるでしょう。しかし、VSTとは実際何なのか、音楽制作でどう活用すればよいのかがよくわからないこともあるかもしれません。
では、音楽におけるVSTとは具体的に何なのでしょうか?この記事では、この極めて重要な制作ツールについて知っておくべきことのすべてをご紹介します。VSTプラグインとは何かを解説し、VSTインストゥルメントやエフェクトを使うメリット、そして自身の楽曲制作にVSTを取り入れる方法まで分かりやすくご紹介します。
セクション一覧:
バーチャルインストゥルメント、ツール、VSTプラグインを収録し、独自のサウンド作りにインスピレーションを与える無料バンドルKomplete Startを使いながら読み進めてみましょう。
VSTプラグインとは?
VST(Virtual Studio Technologyの略)は、Ableton LiveやFL StudioといったDAW内でソフトウェアインストゥルメントやエフェクトを使用できるようにするソフトウェアインターフェイスです。DAW(Digital Audio Workstation)が楽曲制作のメインコントロールセンターだとすれば、VSTプラグインはビートメイキングやサウンドデザインなどに機能を追加する便利なアドオンと言えます。
代表的なVSTプラグインには、シンセサイザー、サンプラー、そしてリバーブやコンプレッションなどのオーディオエフェクトがあります。DAWには内蔵プラグインが備わっているのが一般的ですが、多くのメーカーからもお使いのDAWに対応したVSTがリリースされています。
VSTは音楽制作に革命をもたらしました。90年代以前は、音楽スタジオを構築するのは大変な作業でした。楽器やエフェクトはそれぞれ独立したハードウェア機器であるのが普通で、高価な上に場所を取り、セットアップや使用にも手間がかかっていました。
90年代半ばから、VST技術によってこれらのハードウェア機器がソフトウェア上で再現されるようになりました。DAW内でファイルをドラッグ&ドロップするだけで、狙い通りのサウンドがはるかに簡単に手に入るようになったのです。これにより、ベッドルームプロデューサーたちの新たな世界が一気に切り拓かれました。
広く愛用されているVSTの多くは、往年のシンセやエフェクトなど実在するハードウェア機器のデジタルエミュレーションです。これらのVSTには通常、実機を操作しているかのようにノブを回したりスライダーを動かしたりできるグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)が備わっています。しかし、すべてのVSTがハードウェアの模倣というわけではありません。現在では、ハードウェアの世界には存在しなかった独創的でクリエイティブなVSTプラグインも数多く存在します。
プラグインとVSTの違いは?
VSTはオーディオプラグインの一種ですが、唯一の形式ではありません。Appleが開発しmacOSシステムに対応するAU(Audio Unit)プラグインや、Pro Toolsに対応したAvidのAAXプラグインなども目にする機会があるでしょう。
多くのソフトウェアインストゥルメントやエフェクトは、これら3つのフォーマット(VST、AU、AAX)すべてに対応して提供されており、機能的な違いは実質的にありません。その中でもVSTは最も幅広い互換性を持ち、最も一般的に使われているフォーマットです。
VSTプラグインの用途とは?
VSTは、サウンドの合成やサンプルのトリガーから、エフェクトによるオーディオ処理、ビジュアライザーを使ったモニタリングまで、音楽制作のあらゆる場面で活用できます。
VSTプラグインを使えば、これまで以上に迅速、手軽、かつ低コストで音楽制作が行えます。VSTなどのソフトウェアプラグインは一般的に対応するハードウェアよりもはるかに安価で、すぐに立ち上げることができ、ノートPCのストレージに保存しておけるため、どこにいても曲作りが可能です。
それでもなお、多くのプロデューサーがハードウェア機器ならではのサウンドや触覚的な操作性に特別な魅力を感じており、可能な限り使い続けています。現代の多くのスタジオでは、VSTとハードウェアが共存して活用されています。
VST技術の簡単な歴史
最初のVST規格は、DAWのCubaseを手がけるSteinbergによって1996年にリリースされました。当初はごく少数のVSTエフェクトのみが提供されていましたが、1999年には最初のVSTインストゥルメントとなるポリフォニックのバーチャルアナログシンセサイザー「Neon」が登場しました。

それ以来、この技術はノートごとのエクスプレッションやサイドチェーン入力などの機能を取り入れながら段階的に進化してきました。現在は第3世代となる「VST3」が主流となっています。
VSTに追従する形で、AppleのAU(2000年代初頭に登場)やAvidのRTAS、AAXといった他のプラグインフォーマットも次々と登場しました。しかし、VSTはオーディオプラグイン規格の先駆けであり、今なお最も広く使われ続けています。
VSTプラグインの仕組み
VSTの使い方はシンプルです。インストールも手軽で、ほとんどのOSやDAWと互換性があります。それでも、VSTを最大限に活用するには、その仕組みをある程度理解しておくと役立ちます。主要なポイントをいくつか見ていきましょう。
VST規格
VSTプラグインの強みは、その幅広い互換性にあります。数多くのオーディオ企業が自社ツールをVST形式でリリースしており、どのVSTも基本的に同様の仕組みで動作します。これは、VSTがSteinbergによって開発された規格でありながら、誰でもその規格を利用してプラグイン音源やエフェクトを開発できるよう公開されているためです。
SteinbergはこれまでにいくつかのVST規格をリリースしてきました。現在は、単に「VST」と呼ばれることも多い「VST2」と、より高度な「VST3」の2種類が存在しています。
DAWとの統合
VSTは、Ableton Live、Cubase、Logic Pro、FL Studioなど、主要なDAWのほとんどに対応しています。例外の1つがPro Toolsで、独自のAAXフォーマットのみをサポートしています。しかし心配はいりません。多くのプラグインはAAXやその他のフォーマットでも提供されています。プラグインを購入する際、メーカーからVST、AAX、AUの各フォーマットでダウンロードできるオプションが用意されていることが一般的です。
VSTの互換性
VSTは最も汎用性の高いオーディオプラグインフォーマットです。WindowsとMacの両OSに対応しているため、将来的にマシンを乗り換える予定がある場合にも適しています。ただし、他のソフトウェアと同様に、VSTプラグインでも互換性の問題が発生する可能性は常にあります。思わぬトラブルを防ぐためにも、プラグインをダウンロードする前にデベロッパーのシステム仕様を必ず確認しておきましょう。
VSTプラグインの種類
VSTプラグインには大きく分けて2つのタイプがあり、制作工程においてそれぞれ異なる役割を担っています。入力される信号の種類が異なり、DAW内での動作も異なることが多いため、その違いを理解しておく価値があります。
バーチャルインストゥルメント
バーチャルインストゥルメント(VSTiとも呼ばれます)は、サウンドを生成するためのツールです。通常、DAWのピアノロールやMIDIキーボードなどの外部デバイスからMIDIデータを入力として受け取り、オーディオ信号を出力します。
バーチャルインストゥルメントの主要な2系統は、MIDI入力に基づいてゼロからオーディオを生成するシンセサイザーと、録音済みのオーディオ素材をトリガーして再生するサンプルベースの音源です。
VSTシンセサイザーには、Native InstrumentsのFM8のようなクラシックなハードウェアシンセのエミュレーションもあれば、Massive Xのような斬新で新しい製品もあります。Kontaktなどのプラットフォーム上で動作するサンプルベースのVST音源は、アコースティック楽器や実在の楽器をリアルに再現する強力な手段であり、現代の劇伴制作や作編曲において中核となるツールです。
オーディオエフェクト
VSTインストゥルメントとは異なり、VSTエフェクトはそれ自体でオーディオを生成しません。その代わりに、入力されたオーディオ信号を加工・変化させます。これは、ハードウェアのラックエフェクトやペダル、ミキシングコンソール内蔵のエフェクトと同じ役割を果たします。
VSTエフェクトは、EQやコンプレッサー、リバーブやディレイから、より実験的で独創的なエフェクトまで、あらゆる信号処理をカバーします。バーチャルインストゥルメントと同様に、名機と呼ばれるハードウェアのエミュレーションもあれば、全く新しい設計のものもあります。
VSTエフェクトは、オーディオを入力としても出力としても扱います。DAWのシグナルチェーン内では、エフェクトはVSTインストゥルメント(または他の音源)の後ろに配置する必要があります。複数のエフェクトを直列に配置することで、エフェクトチェーンを構築できます。実際、ボーカルにEQ、コンプレッション、リバーブを順に適用するなど、数多くの伝統的な制作テクニックがエフェクトチェーンによって実現されています。
VSTを使えば、ハードウェアエフェクトよりもはるかに手軽に複雑なエフェクトチェーンを組むことができます。面倒なパッチングを行うことなく、使いたいエフェクトを目的の位置へ素早くドラッグするだけです。同じエフェクトを複数立ち上げて直列に繋ぐことも、ハードウェアであればスタジオに収まりきらないほどの長大なチェーンを組むことも自在です。
VSTエフェクトの中には、サウンドを加工するのではなくモニタリングを目的としたものもあります。iZotopeのInsight 2などのエフェクトは、入力されたオーディオの音質を変えずにそのまま通過させます。そして、ラウドネスレベルや周波数スペクトラムなどの有用な情報をグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)上に表示します。これらのVSTエフェクトは、ミキシングやマスタリングなどの専門的な制作作業において極めて重要です。
VSTプラグインの使い方
VSTプラグインの概要と仕組みがわかったところで、実際の音楽制作でVSTを使用する手順を見ていきましょう。
まずは、使用するVSTを選びましょう。シンセサイザーやサンプル音源からあらゆる種類のエフェクトまで、無数の選択肢が存在します。有料のものが多いですが、無料のものもたくさんあります。
Komplete Startは、18種類の音源とエフェクト、そして2,000種類以上のスタジオ品質のサウンドを収録したNative Instrumentsの無料制作スイートです。VSTコレクションを一から揃え始めるのに最適なエントリー製品です。
次に、VSTをインストールします。大半のVSTは、メーカーのウェブサイト(またはPlugin Allianceのようなプラグインストア)からダウンロードできます。インストーラーが付属しているため、短時間でセットアップを完了できます。
さらに手軽な方法として、Native InstrumentsのVSTなら統合管理ツールのNative Accessからワンストップでダウンロードとインストールが行えます。

続いて、DAW内でVSTを探します。ほとんどのDAWは、新しくインストールされたVSTを自動的に認識します。DAWのブラウザーにあるVSTフォルダーに移動して該当のVSTを見つけましょう。
もし表示されない場合は、手動で新しいVSTをスキャンできます。Ableton Liveでは、環境設定(Preferences)メニューのプラグイン(Plug-Ins)タブから行えます。スキャンが完了すると、DAWブラウザーのVSTフォルダー内に表示されるはずです。

いよいよVSTを使用してみましょう。DAWのブラウザーフォルダーからチャンネルへドラッグします。VSTインストゥルメントを追加する場合はシグナルチェーンの先頭に配置する必要があり、VSTエフェクトの場合は音源や他のオーディオソースの後ろに配置します。
ここでは、Native InstrumentsのVSTインストゥルメントMassive Xを追加しました。
読み込んだVSTインストゥルメントでコードを鳴らしてみましょう。DAWにMIDIコントローラーが接続されていれば、VSTはその入力を自動的に認識します。Ableton Liveの場合、VSTが入っているチャンネルの録音待機ボタン(アーム)をオンにする必要があります。
いくつかの音を鳴らして、VSTの出音を確認してみましょう。MIDIコントローラーをお持ちでない場合は、DAWのピアノロールにノート(音符)を入力してみてください。
初期状態のサウンドは少しシンプルに感じるかもしれません。VSTのグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)を開いて、設定を調整してみましょう。Ableton Liveでは、VSTウィンドウ上部にあるスパナのマーク(ツールアイコン)をクリックして開きます。

GUI上のダイヤルやスライダーを調整して、好みのサウンドを作りましょう。または、VSTに付属しているプリセットを試してみるのもおすすめです。Massive Xでは、上部の黒いバーをクリックすることでプリセットにアクセスできます。今回は「Galactica」という不気味なパッドサウンドを選びました。そのサウンドを聴いてみましょう。
音楽制作でVSTプラグインを活用
この記事では、音楽制作におけるVSTプラグインについて知っておくべき基礎知識を解説しました。VSTの概要や歴史、ハードウェアに対するメリット、そして自身の楽曲制作でVSTを活用する方法をご紹介しました。
次は、実際の制作でVSTを使ってみましょう。18種類のインストゥルメントやエフェクト、2,000以上のスタジオクオリティのサウンドを完全無料で収録したKomplete Startは、VSTコレクションを構築し始めるのに最適です。
*VSTはSteinberg Media Technologies GmbHの登録商標です。