EQは音楽制作において最も地味なツールかもしれませんが、同時に最も重要なツールの1つでもあります。楽曲制作におけるほぼすべてのサウンドはEQで処理され、効果的なEQ処理は、ごちゃごちゃして濁ったトラックと、洗練された魅力的なトラックとの決定的な違いを生み出します。そのため、使いやすく、汎用性が高く、素晴らしいサウンドを備えたEQプラグインを持つことが重要になります。
そこでNative Instrumentsは、リニューアルされたKomplete Startバンドルの一部として、Ozone EQを無料で提供することにしました。このパワフルなEQプラグインは、iZotopeの伝説的なマスタリングスイート「Ozone」の一部として開発されたものです。しかし、単なるマスタリングにとどまらず、はるかに幅広い用途で使用できます。直感的で透明感のあるサウンドを誇るOzone EQは、基本的なEQ処理から高度なサウンドスカルプティングまで幅広く威力を発揮します。また、EQ処理をより簡単にする革新的な機能も備えています。
この記事では、EQ処理の基本をいくつか確認していきます。また、Ozone EQで何ができるのかを探り、この無料プラグインを使って楽曲にEQを適用する方法をご紹介します。
目次:
EQとは?
イコライゼーション(EQ)とは、音声信号の特定の周波数の音量を変化させる音楽制作の処理です。
人間は、低周波(ベースラインの唸るような低音やキックドラムの重低音)から高周波(ハイハットのヒスノイズや歌声の「サ行」や「タ行」の歯擦音など)まで、幅広い周波数帯域の音を聴き取っています。
ほとんどのサウンドは、この周波数スペクトル全体にわたる周波数の組み合わせで構成されています。例えばキックドラムには、100 Hz未満の「ドスン」と響く低音成分に加えて、150〜200 Hzあたりの中音域の「アタック感」、そして3000 Hzあたりにはるかに高い「カチッ」としたアタック成分が含まれていることがあります。
楽曲制作では、サウンドに含まれるこれらの異なる周波数の相対的な音量バランスを変えたい場合があります。そのために使用するのがEQです。
Ozone EQなどのEQプラグインを使用すると、さまざまな形状のフィルターを使ってサウンドの周波数特性を整えることができます。ベルフィルターは特定の周波数帯域をブーストまたはカットし、ハイパスフィルターは指定した周波数以下のすべての周波数をカットします。Ozone EQのような最新のEQプラグインでは、これらのフィルターの数、組み合わせ、位置、効き具合を多彩に調整でき、あらゆる状況に応じた完璧なEQカーブを作ることができます。
EQには多くの用途があります。耳障りなレゾナンスなどの問題のある周波数を除去したり、サウンド全体のトナルバランスを調整してトラック内での馴染みを良くしたりできます。また、マスキング(ある音が別の音を覆い隠してしまう現象)を解消して、サウンド同士の関係性を整理するためにも使用されます。さらに、EQはクリエイティブなサウンドデザインにも活用できます。
OzoneはどのようなタイプのEQ?
Ozone EQは、ほぼあらゆるEQ処理に対応できる汎用性の高いEQであり、Komplete Startバンドルで完全無料で入手できます。このEQは、iZotopeの最先端マスタリングスイート「Ozone 11」の一部として設計されましたが、日常的な音色調整から繊細な問題解決、独創的なサウンドデザインまで、ミキシングや制作作業でも同様に効果を発揮します。
Ozone EQのインターフェイスは直感的で素早く操作でき、一連のスマートな機能によりEQ処理をストレスなく行えます。Gain Match機能は作業中に信号のラウドネスを自動的にバランス調整し、スマートなAmountスライダーは単一のコントロールで設定を素早く微調整できます。さらにOzone EQでは、オーディオ信号をMid/Side、Left/Right、またはTransient/Sustainに分割して、より精密なサウンドシェイピングを行うことも可能です。
これらの機能をどこから使い始めればよいかわからない方のために、Ozone EQを使って楽曲にEQを適用する具体的な例を見ていきましょう。
楽曲制作で無料のOzone EQを活用する方法
ここでは無料のOzone EQを使用して、制作中のビートをブラッシュアップしていきます。まず、EQを適用していない状態のビートのサウンドを聴いてみましょう。
Ozone EQを使えば、ミックス内のさまざまな問題を解決できます。ここではサウンドのトナルバランスの調整、問題のある周波数の修正、マスキングの軽減、そしてクリエイティブなサウンドデザインのためのEQ活用法について見ていきます。
ちなみに、このビートはすべて無料のKomplete Startバンドルに含まれる音源だけで作成されています。Kontakt Factory Selection 2のドラム、シンセ音源「Analog Dreams」のヴィンテージスタイルのパッドとベース、そしてIrish Harpの神秘的なサウンドを使用しました。Komplete Startをダウンロードすれば、Ozone EQと一緒にこれらすべての音源を無料で手に入れることができます。
1.トナルバランスの調整
EQを使用すると、さまざまな周波数の相対的なバランスであるトナルバランスを変更して、サウンドのキャラクターを形作ることができます。これは、サウンドをご自身の音楽的なビジョンに近づけたり、トラック内の他のサウンドと馴染ませたりするために活用できます。
具体例を見てみましょう。ここではAnalog Dreams音源を使って作成した、粘りのあるスクエルチ感のあるベースラインを用意しました。
メロウなローファイビートに合わせて、滑らかで柔らかいベースサウンドにしたいと考えています。しかし現状のサウンドは高域の鋭さが少し目立ち、サブベースも不足しています。
Ozone EQを使ってトナルバランスを調整し、これらの問題を解決しましょう。

まず、高域の一部をカットしましょう。これには、周波数スペクトルの特定のポイント以下の周波数のみを通過させるローパスフィルターを使用できます。
フィルターノードを挿入し、メニューからローパスフィルターを選択しました。そして、適切なメロウさが得られるまで周波数スペクトル上をドラッグし、約2 kHzの位置に設定しました。
ここではフィルタースロープも重要です。スロープが急になるほど、より多くの高域がロールオフされます。フィルターノードの両側にあるタグをドラッグして、少し急な1オクターブあたり12 dBのスロープを選択しました。
次にサブベースをブーストしましょう。EQディスプレイの左端付近をクリックすると、ローシェルフフィルターが自動的に作成されます。このフィルタータイプは、特定のポイント以下のすべての周波数を平らな「棚」のような形状でブーストまたはカットします。ノードを約100 Hzに配置し、上方向にドラッグしてサブベースを+2 dBブーストしました。
それでは、未処理のベースと変更後を聴き比べて、サウンドが改善されたか確認してみましょう。Ozone EQディスプレイの右下にあるBypassボタンをクリックすると、ビフォー/アフターを比較できます。
ただし注意が必要です。EQ処理は周波数成分だけでなくサウンドの音量(ラウドネス)も変化させることがあり、人間はより大きな音を「良い音」と感じてしまう傾向があります。そのため、音量の違いを周波数バランスの改善だと耳が錯覚してしまう可能性があるのです。
これを防ぐためにGain Match機能が役立ちます。Gain Matchをオンにすると、Ozone EQは処理後のオーディオのラウドネスを、処理前(未処理)のレベルに自動的に一致させます。
EQ適用後のベースサウンドはこちらです。
2. 問題のある周波数の修正
多くのサウンドには、耳障りな高域やミックスから飛び出す鋭い共鳴周波数(レゾナンス)など、あまり心地よくない特性が含まれています。EQをメスのように使って、これらの不要な周波数を削ぎ落とすことができます。
こちらはKomplete Startで利用できるIrish Harp音源を使って作成したアルペジオです。
非常にブライトで、高域に不快な鋭さがあります。特に、アタックまたはトランジェントと呼ばれる各音の立ち上がり部分が攻撃的になっています。
ここで役立つのが、Ozone EQのTransient/Sustainモードです。このモードを使うと信号を2つのパートに分割し、鋭いアタックを抑えるためにパートごとに異なるEQ設定を適用できます。その仕組みを見ていきましょう。

まず、EQディスプレイ上部にある二重丸の「ステレオ」シンボルを選択してドロップダウンメニューを開きました。ここでは、Mid/Side、Left/Right、Transient/Sustainのいずれかの方法で信号を分割できます。今回はTransient/Sustainを選択しました。
ディスプレイ上部のTransientボタンを選択すると、サウンドの他の部分を変えることなく、鋭いアタック音だけにEQを適用できます。ハイシェルフを適用し、フィルターノードを1800 Hzに配置して下方向にドラッグし、-5 dB減衰させました。
これにより、ハープのきらびやかなサステインには手を加えることなく、アタック感を抑えることができました。何が変わったかをより正確に確認するには、Transientの隣にあるソロ(「S」)ボタンをクリックして、サウンドの「アタック」部分だけを聴いてみてください。
ハープはまだ少しブライトに感じられたため、サウンドの「サステイン」部分にも軽めにEQを施しました。Sustainボタンをクリックした後、約4 kHzで緩やかなベルカーブを使って-3 dB減衰させました。
これでハープのサウンドが格段に滑らかになりました。
3.周波数の分離
ハープパートのEQ処理を終えた後、トラック全体の中で聴いてみたところ、別のパートとぶつかっていることに気づきました。シンセパッドのチリチリとした高域成分がハープの高域と同じ周波数帯を占有しており、ある音が別の音を覆い隠してしまう現象である周波数のマスキングを引き起こしていたのです。この2つのパートを一緒に聴いてみましょう。
EQを使用することで、これらのサウンドをしっかりと分離できます。ここでの目標は、パッドの高域を抑えてハープの音を際立たせることです。

ここではわずかな変更で大きな違いが生まれます。再びハイシェルフフィルターを使用し、9000 Hz以上の周波数を約-2 dBカットしました。
ついでにパッドの低域もブーストして、より温かみのあるサウンドにしてみましょう。ベースパートと同様に、ローシェルフフィルターが適しています。約500 Hzで+4.5 dBのブーストを適用しました。
EQの適用を終えた後、設定が少し控えめすぎたと感じました。最初から設定をやり直すこともできますが、それには時間がかかる場合があります。しかし、Ozone EQの便利なAmountスライダーを使えば、EQ処理全体の効き具合を素早く変更できます。スライダーを少し右にドラッグするだけで、EQの効果を簡単に強めることができました。
パッドにEQを適用した状態で、2つのパートを一緒に再生したサウンドがこちらです。
4. サウンドデザイン
EQは問題解決のためのツールとして捉えられがちですが、創造的に活用することで、想像力豊かにサウンドを成形し、楽曲制作に魅力を加えることもできます。
Ozone EQをテープ風のワインドダウンエフェクトと組み合わせて、ビートに魅力的なイントロを作ってみましょう。

古いカセットデッキのような低音質のメディアプレーヤーでビートを聴いているかのような印象を作りたいと思います。そのためには、EQを使って低音域と高音域をカットし、サウンドの狭い帯域だけを抽出してみましょう。
このエフェクトはすべてのパートにまとめて適用したいため、DAWのマスターチャンネルにOzone EQを追加しました。
次に、ハイパスフィルターを使用して低音域をすべてカットし、ローパスフィルターで高音域をカットしました。約700 Hzから5000 Hzの狭い周波数帯域を抽出するようにノードを配置しています。スロープを急にするほど極端な効果が得られるため、ここでは1オクターブあたり24 dBのスロープを選択しました。
イントロを完成させるために、テープのワインドダウンエフェクトを加えました。実際のサウンドを聴いてみましょう:
最後に、すべてのEQ処理を適用したビートを聴いてみましょう。Ozone EQのおかげで、よりクリアでバランスが取れ、スタイリッシュなアクセントも加わりました。
Ozone EQで始めるサウンドシェイピング
この記事では、EQの基本とOzone EQの仕組みについて解説しました。また、この無料EQプラグインを使って楽曲をEQ処理する方法を実演し、音色のシェイピング、サウンドの分離、サウンドデザインなどの作業を取り上げました。
その実力が分かったところで、ご自身の楽曲制作でもOzone EQを活用してみましょう。この多機能なEQは、Native Instrumentsの刷新されたKomplete Startバンドルの一部として完全無料で提供されています。このバンドルには、インストゥルメントの強力なツールキットと膨大なサウンドコレクションも含まれており、インスピレーションを得るために必要なすべてが揃っています。
さらに多くの音楽制作ツールをお探しの場合は、無料VSTプラグインのリストもぜひご覧ください。